ゆらのとを
千早、新ともに「ちは」札を取った。小学生の時の言葉、「あれは名人になるやつだから」「じゃあ綾瀬さんはクイーンやの」の実現に近付く一歩だ。 やっと やっと 迎えにきたよ 迎えにきたよ 沸く千早応援団の部屋から、そっと出る太一。太一はロビーの椅子に…
太一は周防と、予備校帰りに寄り道。周防が問い掛ける。 「きみは『ひとかど』って言葉 知ってるかい」 「ひときわ優れている」という意味で、漢字で「一廉」と書く。周防は兼子の話をする。 「親がさ 本当は『廉子』って名づけるつもりだったのに 出生届の…
予選第2試合目の読手は、牧野美登里六段。周囲の誰もが、身体がよく動き、音の反応も良く、一試合目で地力を見せつけた千早が優位と見ている。 最初の札は「おくやまに」。一戦戦って千早が「おおえ」と「おく」が得意と気付き、結川が千早陣から両方ぶっと…
試合が始まった。大江と花野は応援席。 試合数こなしてくると より感じる 富士崎の選手の身体の強さ 体幹の確かさ 強豪校を目指してる段階の私たちと すでに強豪である高校の 強い足腰 筑波の息がもう上がっているのが、花野は気になる。連戦で、僅差負けが…
新は南雲会での後輩が入学して来たので、かるた部創設を申請。村尾が高校選手権運営に携わり奔走していること、自分をかるたの世界に引き戻してくれた千早のことが頭にある。袴姿で各学年各教室を回り、かるた部への勧誘を始めた。由宇には三年生なのに今更…
新は村尾相手に11枚差。中座した間に何が読まれたのかは、減った四枚の札の他、空札が何枚読まれたか、決まり字がどう変化したのかも分からず、枚数差以上のハンデとなる。 観衆が諦める中、新は札を動かし、戦う姿勢を見せる。運良く自陣が出て取れた。次の…
新は周防に言われたことの意味が分からずムカムカ。闘志を燃やしていた。 きみはいつか名人になる 次じゃない きみを見ててもテンション上がらない 周防は若宮と一緒に近江神宮へ。きちんと参拝する若宮に、周防は言う。 「きみの強さを支えているのは そう…
富士崎高校での合宿二日目。千早はヒョロに言われたことが気に掛かっていた。 真島は 綾瀬がそばにいないほうが 強いと思う 試合は四試合。桜沢先生が作った対戦表は、千早と理音が三戦。がっくりする理音に、満面の笑みの千早。 「山ちゃん 桜沢先生ってす…
新も最初からこんなかるたを取れていたわけではない。まだ身体が小さい頃は村尾に負け続け、いつも祖父をイメージしてやっているのにちゃんと動けないと悔しがっていた。祖父に言われた。 そんな怖い顔してかるた取ってるんか? イメージっていってもぉいろ…
瑞沢側が持つ札を、大江が確認。この一枚が太一の陣に残るとは。 ゆらのとを わたるふなびと かぢをたえ ゆくへもしらぬ こひのみちかな 由良の門は河口で川と海が出会う潮目。そこで楫を失くしてしまった。行方の分からぬ恋。 千早 起きてくれよ せめて見て…
ロビーに居た千早の耳に、新の声が届いた……気がしたが姿は見えない。新のことを気にしている千早を、太一が不機嫌に注意する。強豪チームが多く、新のことなど考えている余裕はないのに。 新は陰で村尾と会っていた。外に出ると、同じ中学だった翔二率いる福…
学校の教室。駒野は部活や公式戦で取って来たデータを見て、千早の一字決まりが20枚くらいあることに気付いたと言う。 「しら しの ゆら ゆう かく かさ ちは もろ もも ひさ きり うか うら は頭の一字で取ってんじゃないかなあ 自分でもわかるだろ?」 千…
新と坪口の対戦は、坪口の辛勝。引き上げる新の前に、太一が現れた。 「……遅ぇよ 広史さんはうちのエースなんだ ブランクが一年半もあるやつに負けねーよ」 太一は目を合わせないが、新はその目に涙が浮かんでいるのに気付く。 千早は床に這いつくばってノー…
新の祖父は病に倒れながらも、ベッドの上でかるたの配置を考えていた。新はリハビリを手伝いながら、東京にいた時の話を何度も繰り返す。 「使ってえん教室で 千早と太一と練習したりして 千早はすごい”感じ”がよくて 僕もっと千早にいろいろ教えたかったな…
冒頭は、高校三年生の綾瀬千早がクイーン戦に挑む数カット。以降、物語は回想に移る。 6年まえ まだ情熱を知らない私 小学六年生の千早には、美少女グランプリの最終15人に選ばれるくらい美人の姉がいる。クラスメイトの真島太一が「姉妹なのに千早はまだ男…