chiha memo

漫画「ちはやふる」の伏線や感想などの超個人的備忘録

最終首(後半)いづれか歌を詠まざりける

高校卒業式。千早は宮内先生からの訓示を受ける。

「クイーン 『部活の顧問をやりたいから』なんて気持ちで戻ってくるんじゃないですよ 教育現場の肝は学びの導く力よ 人を教える怖さと 人と向き合う楽しさに 取り憑かれたら戻ってきなさい」

 

一方、太一が東大を受けていないと判明。また秘密にされた、と頭を抱える千早を、駒野が突き放す。

「真島らしいってだけじゃん なんでもかんでも話さないし 志望校だって自分で決めるよ 綾瀬だって ただの友達なんだから」

駒野としては「ただの友達ではない」から敢えて言ったのだった。

 

太一は在校生達に賑やかに囲まれていたが輪を抜けて、花野には胸ポケットに飾られていた花を、筑波には制服のネクタイを渡す。

「部長とキャプテン かるた部をよろしくな」

 

千早は校舎を走り回っていた。

最初の音を聞くだけでどの歌かわかるのに 私は短歌なんて詠めない 気持ちを言葉にすることができない

部室に太一がいた。太一が手にしていた集合写真は、撮る瞬間に千早のお腹の音が鳴ったせいで、皆が笑い顔で写っている。太一は千早が庇ったことに気付いていた。

「ホントは花野さんの腹が鳴ったのにな」

太一が受験したのは京都大学だった。

「もう環境変えなきゃなって なんだその顔 大丈夫だろ あれだよ あれ おれたちにはかるたがあるから また会えるよ」

千早の頭に浮かぶ情景。

ひとつまえの春に この畳の上で太一がしてくれた告白は 歌だった

頭が揺らいで倒れ込みながら、千早は太一の手を取る。

歌は詠めない でも 私の気持ちを伝えられるのは 私だけ

様子が違う千早に、黙って見入る太一。千早はようやく伝えた。

「好き だ よ」

今更? と突っ込みつつも、太一も千早の手を握り返して確かめる。

「好きって おれを?」

これには立ち聞きしていた大江もガッツポーズ!

生きとし生けるもの いづれか歌を詠まざりける

 

月日は流れ、全日本選手権開催日。新と再会した千早と太一は、交際開始を報告。

「マジ…か……っ そうか… うん……うん…… 東京出てきて これからがんばろーって思たけど遅かった」

遠距離恋愛は大丈夫かと問う新に、「頑張る」と答える太一。「遠恋」という言葉の響きに舞い上がる千早……。

大会には新名人と新クイーンを倒そうと、若宮、須藤、猪熊、桜沢、原田先生、富士崎の面々など、A級選手が勢揃い。

「私 名人にも負けないよ」

千早の言葉に、新も受けて立つ。

「こっちのセリフや クイーン さ かるたしよっさ」

(おわり)

ちはやふるTOPPO

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最終話。告白場面に至るまで、古今和歌集仮名序からの引用と「ちはやぶる」の歌の解釈が添えられており、溜息が出るほど美しい流れ。特に「歌なり」との重なり。高校二年生の夏、千早が宿題で詠んだ短歌は第95首で皆に笑われていた。でも、短歌の形式ではなくとも太一の告白は歌で、千早は短歌は詠めないが口から零れた言葉は歌だった。一年越し、畳の上での歌会だ。

太一の「かるた部をよろしくな」と「かるたがあるからまた会えるよ」など、完全に吹っ切れた笑顔。皆が集結した大会はオールスター勢揃いが懐かしくて楽しいし、新の「かるたしよっさ」は、大長編を締めるにふさわしい台詞。何処にも無駄がなく、説得力がある。……なのに不満がー!

 

太一には東京に残って、やっと得た青春を満喫しまくって貰いたかった。周防との繋がりが薄くなるのも残念だし、須藤にいたぶられる太一も見たかったw 折しもリアル世界で発生した事件から分かったことに、東大では二回生までは教育課程、学部が決まるのは三年目なので、例えば事故大病で欠席した場合、医学部に進めなくなる危険性があるらしい。理3=医学部確約ではないのだ。最初から「医学部」に入る選択をした太一は賢明と言える。

部室に次々現れた瑞沢部員という千早脳内風景の続きで、卒業式の日は実際に太一が部室にいて、という舞台設定は予想通り。太一からの告白後の第139首で、千早が告白を思い返す場面があるが、そこで描かれたキラキラ太一が再現されるかと思ったら、そこは期待外れ。髪の長さが元通りだし上着はどちらも脱いでいるので、その予定だったのだろうか。ページが足りなくなったのか。私はその後の場面も見たかったから、全然物足りないよ!

あんぽんたん仲間だった机くんが藻塩事件を経て、千早を「わからんちん」呼ばわりするまでに進化。試合中に「ずっといた」と閃いた様子だったのに、あれでまだ分かっていなかったのが驚き。試合後の当日中にでも告白していたら、太一の進路も違ったかもしれないよ?

そして何より、新への返事はあれでいいのか……? 新は悟っていた様子で、十年後に隣にいるのは俺かもよ的なブラックジョークをかましているが。落としどころ、そして新の表情、共に納得ではある。そもそも、夏の全国大会で太一が登場した後、東西戦後でも、悟ったからとフェイドアウトしたのかと思っていたくらい。それが第216首で「抱きしめたい」と考えてみたり、第241首で「好きな子が後ろで頑張ってる」と言ってみたり。最後の悪あがきとも言えるし、新が勝手に思っているだけで矛盾は無いのだが、どうせ諦める方向ならばドラマティックで美しい引き際を望みたかった。

全日本かるた選手権は毎年四月下旬の開催らしい。作中では名人戦クイーン戦は男女別で、と何度も触れられて来たが、ならば男女混合大会で最高格なのは、と調べて出て来たのがこの大会。何故作中で登場しないのかと疑問に思っていたら、こうして最後に持って来るためか。高校生なので遠征費問題もあるが、不自然に思う。

というわけで、卒業式から大会までの空白が一カ月半くらい。引っ越し作業はあるが、三人か、どんな組み合わせでも二人という単位で、会う機会はなかったの? 作れなかったの? 作らなかったの? 千早と新は同じ東京にいるのだし、一日くらいどうにかならなかったの?

しかし千早さん、足切りに遭うかギリギリの点数だったらしい。大学に入って教員資格を無事取れたとして、東大を狙うような生徒もいる瑞沢で教えることって可能なのか? 希望通りの学校に配属されるかという問題もある。一方でこれまたリアル世界において、部活の指導者を外部委託する可能性も近年浮上して来た。これはむしろ千早には有難い話かもしれない。

 

本編はこれにて完結。最終巻には菫の奮闘ぶりを描いた番外編が収録されているが、「ちはやふる」のメモと感想はこれにて終了ということで。太一と千早の青春満喫話に期待していたので、しつこいようだがこれまた少々残念であった。