chiha memo

漫画「ちはやふる」の伏線や感想などの超個人的備忘録

第174首 積もっていく

夏休み中の学校へ行こうとする千早を、「かるたの練習でしょ」と母が咎める。模試の結果がC判定ばかりで、先生に受験勉強に専念するよう言われていたのだった。

「千早 浪人してまでクイーンになってなんになるっていうの?」

そんな母の言葉を振り切り、千早は家を飛び出す。


蝉の声が煩い部室で、千早は一人で掃除をしながら溜息。成績が悪いという自覚はある。ふと気配を感じて開け放たれた窓を見ると、太一が立っていた。千早が戸惑っていると、太一が入って来て椅子を片付け始める。

「ケジメの大掃除ならおれもやるよ 2年間お世話になったんだ」

掃除洗剤に関する無駄話から、二人は以前のように打ち解けて行く。気付いたことに、棚の上に厚い埃が積もっていない。大江がマメに掃除してくれていたのだろう。壁についたコーヒー牛乳のシミは西田の仕業。机の上に整然と並ぶノートは駒野。共に確認しながら、黙って部室を眺める二人。

積もっていく

千早が畳に触れる。母に言われたことが心に影を落としていた。太一が声を掛けようとしたろころで、来訪者に遮られてしまう。


吹奏楽部がかるた部と部室の交換を要求しており、この日は採点カラオケで勝負することになっていた。居合わせた太一も巻き込む形で、カラオケ店に集まる部員達。

かるた部の先陣を切ったのは千早。千歳のデビュー曲を振り付きで歌いこなして95点。太一は「久しぶりに聴いた」と大爆笑。歌い終えた千早は、太一と背中合わせの席に着く。太一が東大かるた会で練習していることは、西田達から先日聞いた。背後の太一のことを考えながら、千早は新の言葉を思い浮かべる。

かるたをしてれば おれらの道はいつか重なる

二番手で歌った田丸は85点。歌が上手い順に出ているので、三番手の駒野で得点は見込めない。千早の顔色が変わったのを見て、太一が駒野からマイクを奪った。太一が歌う「うるう年のマーチ」に聞き入る一同。


帰り道。部室争奪戦はかるた部が勝利したが、この勝負が毎年恒例になるのではと心配する部員達。新部長の筑波、新副部長の花野も、声を揃えて大反対。

「先輩たちも引退しちゃって心細いのに 思い出つまった部室までなくなったらヤダ!」

賑やかな皆と距離を取り、大江が西田に話し掛ける。

「…肉まんくん ありがとう あのとき好きって言ってくれて」

西田は一瞬言葉を詰まらせたが、笑って誤魔化す。

「な なんだよー言ったじゃんうそだって! うそだようそ! ごめんごめん」

大江は涙を滲ませながら笑う。

「ありがとう うそって言ってくれて」

西田が皆に追い着くと、駒野は静かに涙を流していた。話しているうち、号泣し始める。

「みんなでカラオケ 楽しかったね…… 部活思いっ切りやって おれら引退したね… 友達がいて 後輩がたくさんいて みんなで帰り道笑って どうしよう これ宝物だ 2年半 ただの時間のはずが 自分にはムリだって思ってたものが 手にはいったよ 宝物になったよ……」

千早と太一は二人で最寄り駅に降り立ち、駒野が泣いた件で太一が言う。

「駒野たちはこれで引退で かるたは一段落だからな」

駒野たちは、に反応する千早。太一が菓子折りに残した言葉は『次は試合で』。

「太一の 太一の『次』の試合ってどれのこと?」

母に言われたことを考えながら、弱音を吐き始めた。

「私は器用じゃないし バ……バカだから 受験捨てて クイーン戦予選に懸けていいのか 今年は諦めて 来年目指すべきなのか……」

太一が急に千早の手首を掴み、千早の腕時計を見る。

「録画予約とかしてんの? もう始まるぞ 知ってるだろ テレビで周防名人と若宮詩暢の かるたの特番があるの」

今度は千早が太一の手首を掴み、走り出す。太一は強引に綾瀬邸に連れて行かれ、一緒にテレビを見ることに――

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高校三年生の夏、受験勉強も本格化。舞台が東京に戻った途端、新のことを印象付けた前回描写も、ここ数カ月のごたごたも切り落として捨てたかのような、千早と太一の親密度を見せつける回。太一の動向はまだ読み取れないが、千早を気遣う様子が随所に伺える。部室で邪魔が入った場面は、再度謝り直そうとでもしたのかな。千早も太一の言葉や表情を都度気にしている模様。

窓の外に太一が立っているのは、全国大会前に気配だけだった第30巻第154首との対比。蝉の声といえば、第17巻第92首で千早が新に電話した時に、彼が違う世界にいるようだと感じさせられたエピソードがあった。今回はちゃんと太一が居る。思い出が積もり積もった部室に戻って来た太一。第18巻第95首でかなちゃんが言った「迷ったら自分の中に積もっていってほしいのはどっちか」を連想させる。片や、前巻第170首で思い出のアパートの部屋を出た新。千早母は「クイーンになってなんになるっていうの?」で、太一母も第20巻第108首で「かるたとか名人とかなんにもならない」と同じことを言われている。対比が多い。

千歳デビュー曲「目ヂカラSEARCH」の作詞作曲は、瑞沢校歌や第31巻第159首でも登場した「うるう年のマーチ」でお馴染み、軽田伊能知先生。幅広いジャンルでご活躍。千早の前での太一の笑顔は久しぶり。太一は「大江さん」「花野さん」なのに、「田丸」は呼び捨て。作者ミスかもしれないが、第31巻第162首で田丸が太一を見て驚いていたし、過去に試合で接点があったのかな。ウザい奴として印象深かったとか。

太一がかるたを続けていると千早が知ったのを回想する場面、肉まんくん達が練習Tシャツ姿なので、全国大会出発前と推察される。それで千早は「気配を感じる」ようにまでなったのか。ならば、第32巻第165首にて「もう一緒にかるたはできない」と泣いたり、太一の「次は試合で」にあんな驚き方をすることもなかろう。この辺りの千早の感覚が分からない。いや、彼女については理解出来ないことだらけですけどw