chiha memo

漫画「ちはやふる」の伏線や感想などの超個人的備忘録

第173首 強くなる道を行きたい

個人戦A級は新が優勝。喜ぶ藤岡東一同、称賛する役員達。だが、村尾は違う感想を持った。

安定? いつもどおりの自力? ちがう もう一段強くなろうとしたんや 自分以外の力を借りる 不安定で貪欲なかるた

新はアパートの光景を思い浮かべる。千早の「手に入れたいものほど手放す」が前提だった。

手放した あのイメージを

若宮は顔を強張らせ、札を片付ける。祖母に「かるたのプロになりなさい」と言われたのに。

滑稽や 昨日は鳥人間コンテストも見に行かんと 周防さんのTV特集しゃしゃり出て 今日は着物まで着て個人戦出とんのに また新に負けて… 調子に乗ってバカみたいや うちは変われん 一人や

大江はC級、花野もD級で優勝。千早は二人を抱き締めるが、花野に「真島先輩が良かった」と抗議される。笑い溢れる女子部員達の後方で、準優勝の賞状を見詰める駒野。西田が大江に声を掛けた。

「ず ずっと好きだったんだ ずっと好きだったんだ かなちゃん おれと つ」

言葉の途中で西田の口を、駒野が手で塞ぎ、代わって駒野が告白。

「かなちゃん おれも好きだった だったっていうか好きだ ずっと好きだ」

大江は目を潤ませる。西田は駒野ににやっと笑う。

「やっと言った 遅えよ おれの言ったことなんかウソだよ」

西田は退室。大江は顔を覆って泣き出す。

「遅いです… 遅いですよ 机くん… 私 もう 藻塩みたいになっちゃってますよ~~~ バカ~~~~~」

藻塩――恋焦がれて干上がりそうだったと言われ、駒野はオロオロ。

来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに やくや藻塩の 身もこがれつつ

その様子を温かく見守っていた瑞沢一同だが、千早は愕然とした後「藻塩…」と呟き、部屋を飛び出して行く。西田は屋外で涙。


若宮を心配した伊勢先生が声を掛けて来たのを、若宮母が遮る。娘が負けたことで、母なりに自らの態度に後悔している様子。帰路に就くが、母娘の横を千早が駆け抜けて行った。千早は新の腕を掴んで引き留める。

「わ…私 言ってなかったと思って 新 藻塩になってるかもと思って 好きって言ってくれたのの 返事…… 返事っていうか気持ち い…いまの…」

驚いて赤面する新に、千早はきっぱりと宣言する。

「私… 全国大会でたくさん試合して思ったの もっとかるた強くなりたい 強くなる道を行きたい 詩暢ちゃんにも勝ちたい 日本一… 世界一になりたい」

新は唖然としながらも、同じく千早に宣言。

「…… …… …… うん わかるわ おれも千早に勝ちたい かるたをしてれば おれらの道はいつか重なる 『いま』じゃなくていいから もっと近づいたら おれのことどう思ってんのか 聞かせて 近くに行くから」

千早の肩に触れ、新は再び顔を赤らめ去って行く。

「次来るときは 名人戦クイーン戦やの またの」

そんな恋愛情緒の欠片もない高三男女の会話を呆れて見ていた若宮母娘だが、若宮は一人で会場へ引き返して伊勢と話す。

「伊勢先生 明星会 寄らせてもらいます まだまだ未熟者で 変わっていかな 下から来るかるたバカが怖いですから」

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全国大会表彰式。村尾さんの見立てでは「不安定で貪欲なかるた」、第17巻第90首で千早が見た新は「なにが触れても弾き返される安定した世界 千速振る」。第11巻第63首のかなちゃん解説によれば、「ちはやぶる」の反対の「あらぶる」は、「悪い神の力」で「バランスの悪い不安定なぐらぐらな回転の独楽」。新が全力で逆走して行っている? しかも今更気付いたことに語感が、あらぶる……あらた?

新は第170首の「さよならが近いだけや」で千早への思いを断ち切るのかと思いきや、会話してはっきりさせるわけでもなく帰ろうとしていたし、ひとまず保留にしておいて名人戦を目指す方向らしい。しかし、「こぬひとを」のように藻塩になっていたら困る、と千早から来た。新を好きだからそうなっていたら困る、と普通は捉えるよね。千早が新の肩や腕を掴んだり、新が千早の肩に手を置いたりと、過去にない接触ぶりも描かれている。

但し、同時に千早は、第28巻第145首で机くん達の親密ぶりに注目しつつも意味を理解していなかったらしく、結局あんぽんたんなままだった、という前振り付き。何より物凄い唐突感。高松宮杯以降は新に告白されたのもすっぽり抜け落ちたかのように思い出しもせず、24時間程前迄「太一太一」と泣いていた千早は一体何だったのか。千早が言う「強くなる道を行きたい」はむしろ、この日の朝の独白、第166首「太一が次を語る 目の前にはばあっと かるたの道が続いてる」で太一に繋がるのだが。それを踏まえると、新を見送る千早の表情が微妙にも思えて来る。

全国大会に関する話の始まりと終わりが「一人」描写。出発前の第30巻第154首で部室に一人、団体三位決定戦では「一人でも大丈夫」的な「おおえやま」札、そして今回は楼門に一人向かって一礼。小学生時では卒業後に「一人になるの?」と悲観し、第7巻第36首では単独で大会に臨む太一を「一人だったらどうしよう」と心配したりと、「一人」を嫌う千早の今後が気掛かり。

筑波もあんぽんたんの仲間らしい。第30巻第154首で肉まんくんが机くんに「つきあってってかなちゃんに言わねーの」と煽っている場面で、筑波もそれを聞いて驚いているのに、ここで初めて聞いたような反応。そんな筑波を絶望的な表情で見ている菫は、気持ちというか情が移りつつある?

肉まんくんが告白を「ウソだよ」と言っているが、第26巻第138首で太一がそう心の中で連呼しつつ声に出さなかったのと、これは対比になるのだろうか。また、「こぬひとを」はかなちゃんが表紙に描かれている第7巻にて、表紙袖で紹介されている歌だったりする。これも伏線のうちだったのだろうか。

第33巻終了。新の目ヂカラにやられそうな表紙に掛けられた帯広告は「きみに誓う――。『強くなる』と。」とある。毬栗にも花言葉があるのね。「まごころ」「公平」「豊かな喜び」だそうな。袖の歌は第172首より、新が超加速で取った「憂かりける」。巻末四コマ漫画は、須藤による少女漫画的な壁ドン、顎クイ、髪くしゃ、あすなろ抱き。最後に西田姉と肩ズン。