chiha memo

漫画「ちはやふる」の伏線や感想などの超個人的備忘録

第244首 やっと迎えに来たよ

周防と若宮は快調。千早は四連取されている。新が以前、「試合をするときはいつも あの部屋(ボロアパート)に戻るんや」と話していたのを思い返す。

芹沢読手の喉元からの音を、周防が捕まえに来る。読まれたのは「ふくからに」。千早は取った札を拾いながら考える。

私が戻る部屋は 私が一番楽しく かるたを取れたのは

思い浮かべたのは、瑞沢かるた部の部室。送り札は「わた・や」。千早の想像の中で、新が部室の掃き出し窓から顔を覗かせる。千早が「勝つよ」と言えば、新は「ほんとに?」と答える。「わた・や」がすぐに読まれ、新と千早がそれぞれ取る。千早からの送り札は「おおえ」。

若宮は部室前の廊下、扉の窓越しに影を見せるだけ。そして読まれたのは「しのぶれど」。若宮が自陣から取る。部室に若宮は来なかった。

周防は集中して取っているが、畳に飛ばした札を見つけられない。須藤が拾ってくれる。

「ありがとう 須藤くんがいてくれてよかった もうほんと……厳しいな」

周防が「こぬひとを」を取り、須藤が札を拾う。若宮の目には、詠み人である定家が周防に微笑みかけているように見えた。

新の腫れた指を、周防が心配する。

「え ああ 大丈夫です 99枚目まで取れます」

新は自分のペースで試合を進めており、四試合目で珍しく送った「ちは」が取れなくとも、五試合目の最後の最後まで見ているのだ。そうと気付いた周防は、送り札に「せ」を選ぶ。

追い詰めたら… 綿谷新は鬼のような残忍さを出してくると思ってた それが綿谷新の本性だと でも… 目の前の彼から今出てくるのは 小さな子供のような 透明で前向きな気持ち

周防がまさかのお手付き、セミダブ。新が「ひさ」を送る。「ちは」は送らない。

新 自分らしくいね 自分のかるたをしね ほんな新といつかかるたがしたいよ じいちゃんは

下の句が終わり、次の一首へ。

ずっとじゃなくていい 下の句が読み始められて 余韻3秒 無音の1秒 その4秒 どうか誰も 息をしないで

部室の掃き出し窓から、小学生の千早が入って来る。千早は小学生千早に微笑み、抱き締める。

やっと 迎えに来たよ

「ちはやぶる」が読まれ、手を伸ばす千早と新――

49.jpg

memo

第五試合終盤。前回最後の台詞からすぐ「ちは」に繋がるかと思いきや、試合中「息をしないで」と念じ続けていただけか。尚、音漏れは周防も不快そうにしている。新と詩暢の描写は無い。

千早は小学生の時に新から指摘された「自分のことでないと夢にしたらあかん」を克服。新も「こわいこわいかるた」の祖父の呪縛から脱して、自分を見つけたらしい。千早の妄想でも、度々小学生姿で描かれていたのが、瑞沢部室に現れた際は等身大だった。掃き出し窓は、高校三年夏休みの第34巻第174首、太一が通った窓でもある。太一といえば、今回はひたすら新を心配するのみ。

読まれた札は「わがそでは」「みかのはら」「かくとだに」「あいみての」「きりぎりす」「わたのはら・こ」「ふくからに」「わたのはら・や」「しのぶれど」「たまのおよ」「こぬひとを」「なにわがた」「なにしおわば」、そして「ちはやぶる」。「ちは」札があるのは、千早には敵側の詩暢陣、新は自陣。


残り札を整理してみる。詩暢が「せ」を送り返す場面にて、詩暢陣に「はなの」と「あきか」、後に読まれる「ふ」と「ちは」が見える。「はなの」「あきか」は、「ちは」の場面でも詩暢陣のまま描かれている。

  • 瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の われても末に あはむとぞ思ふ
  • 花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに
  • 秋風に たなびく雲の たえ間より もれ出づる月の かげのさやけさ

「わた・こ」の場面、千早陣より「たち」「かさ」「たご」の三枚が見て取れる。

  • 立ち別れ いなばの山の 峰に生ふる まつとし聞かば 今帰り来む
  • かささぎの 渡せる橋に おく霜の 白きを見れば 夜ぞふけにける
  • 田子の浦に うち出でて見れば 白妙の 富士の高嶺に 雪はふりつつ

「わた・や」を取った後、「おおえ」が送り札で詩暢陣に。

  • 大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみも見ず 天の橋立

ここまでが今回の話だけで判別出来る札、計7枚。6-6の場面から「しの」「たま」、そして「ちは」が読まれて残り9枚なので、2枚足りない。まず、名人戦側の送り札として登場した「ひさ」は、前回最後の場面で詩暢陣にあった。

  • ひさかたの光のどけき春の日に しづ心なく花の散るらむ

もう1枚は、同じく前回詩暢陣にあった「つく」と思われる。

  • つくばねの 峰より落つる みなの川 こひぞつもりて 淵となりぬる

これで残り計9枚、計算が合う。千早陣にあるのが「せ」「たち」「かさ」「たご」で、詩暢陣が「はなの」「あきか」「おおえ」。送り札が描かれていない場面があるので、「ひさ」「つく」については保留。


というわけで、残りは瑞沢部員に纏わる札ばかり。「はなの」は花野菫。筑波秋博は、「つく」ではなく「あ」とのことで、「あきか」か。最近はコミックスの登場人物紹介で省かれておりフルネームを目にする機会が無いが、忘れてくれるなとばかりに同級生の花野とわざわざ揃えて描かれている。あのコマと大江奏の「おおえ」で、実は部員の名前だらけと教えてくれてもいる。

駒野勉こと机くんの「つく」は描かれていないが、まだ残っている。西田優征の歌は「ゆうされば」との設定だが、探してみたところ第48巻第241首、千早が立ち上がって畳を見下ろした場面で千早陣にあった。読まれた描写は無いが、千早が既に取ったことにしておこうw 一人だけ省略されたのは、新の幼馴染の由宇と被るせいか。小説版中学生編では、彼女のフルネームは芦野由宇になっている。

  • 夕されば 門田の稲葉 おとづれて 葦のまろやに 秋風ぞ吹く

太一に関する札は最後になるのだろう。「たち」と「たご」とで、聞き分け勝負にも使える。第29巻第152首で千早からメールを送った時に触れた「せ」は、クイーン戦の最中でも太一の札だと回想されていたが、その後「ずっといた」と認識したので、「せ」案は消えたように思う。

「たご」もかなちゃんの歌であり、クイーン戦の象徴の如く描かれているので、千早が取らねばならない札。「ひさ」は瑞沢かるた部の部員募集ポスターに描かれていた歌。部の始まりの歌だから、真っ先に読まれてもいい。

千早が取りたい瑞沢札ばかりで、妙にバランスが悪い。千早の部屋に呼ばれた「わた・や」は異質。ちなみに、新が部室に現れた場面、新は窓から顔を覗かせただけであった。同じく異質な、千早と新に纏わる「かささぎ」札。現在は千早陣にあるが。

尚、名人戦側にも「たご」と「せ」、「たち」「あきか」「ひさ」がある。他に名人戦側のみに「みかきもり」「ながからん」「はなさそふ」「ゆらのとを」など。前話を見ると「たれ」もまだ残っている筈。千早が高校で太一と再会した時の「たれ」や、高校全国制覇を決めた時の「ゆら」には内容からも、良い仕事を期待したい。

明暗を分けるのは、やはり「せ」札か。詩暢と新は「せ」に拘っているので、そちらに引き摺られそうでもあり。