chiha memo

漫画「ちはやふる」の伏線や感想などの超個人的備忘録

第163首 目の前にいるのはおれやよ

太一が来た。願ってはいたが思いがけぬ人物の登場に、驚く部員と母親達。西田は隣の千早に伝えようとするが、千早は目の前に集中し過ぎており気付かない。太一は千早の陣を見る。

か… 勝ってる いま 6枚差? 新 相手に 勝ってるのか!?

新は額の汗を拭く。

…… すごい 強いな 『余計なこと考えんやつが強いんや』 じいちゃんも言ってたな 音と札だけの世界 すさまじい集中

新が落ち着いて、千早の陣から連取。攻めがるたの相手にとって嫌な札を二枚送る。新は千早に、心の中で語り掛ける。

千早 おれやよ

次の札は「せをはやみ」。千早の得意札を、千早の陣から新が抜いた。飛ばされた札を驚いて見送る千早と、衝撃を受ける太一。村尾がその作戦に見入る。

新… 最初からガリガリの「せ」狙いじゃねえか

新がまた送り札を差し出す。

千早 おれやよ

「せ」の札は、小学生の時に千早が初めて新から奪った札だった。

千早が あの日取った一枚 今日に続く一枚 ずっと取り返したかった 音と札だけでない 目の前にいるのは おれやよ

次に読まれたのは「ちはやぶる」。空札……と千早は札を眺め、顔を上げ、そこでやっと太一の存在に気付いて目が合った。千早の中で、小学生の頃のイメージが蘇る。


小学校卒業式の日の、アパートの部屋。千早が顔を上げると、太一が読み札を手に千早を優しく見守っている。千早は太一に見入った後、対戦相手に目を移す。新が千早に微笑む。


千早は目の前の新を見た。暫し新を凝視し、畳に目を落とす。

新… 私

もう一度、新を見た。何かに気付いたように、心の中で呟く。

私…

札が読まれ、千早は出遅れて新に取られてしまう。もう一枚、取られる。

…… うわあーー やっぱりすごいなあ 新は すごいなあ

次は千早が取ったかと思ったが、同時か。新を見る。

「いや 千早の取りでいいよ クリーンな取りでなかったら おれの取りでない」

千早は新に笑い掛けた。

「ははっ 強気だなあ」

小学生の自分と新のイメージが蘇る。

新とかるたが 新とまた かるたができる

そこで、駒野と大江から「瑞沢1勝」「瑞沢2勝」と連続で声が上がった。千早はチームメイトを見ていなかった。我に返って、自分に気合を入れ直す。

見て 新 見て 太一 これが 私の仲間だよ

西田、田丸からも「瑞沢3勝」「瑞沢4勝」の声が上がる。千早が自陣の「おおえやま」札をパッと払った。

「瑞沢5勝!」

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新は「目の前にいるのはおれやよ」、高校一年の太一も第3巻第12首で「目の前にいるのはおれだろう?」と、いずれも心の中から語り掛けているフレーズ。千早は太一を見付けた時、何を思ったのだろう。相手に目を向けていない無の状態から、ただ正気に戻っただけなのか。名人戦挑戦者決定戦の時のように、小学生の自分は新、高校生の今は原田先生を応援、というパターンで、新ではなく今は太一、なのか。新については小学生新をイメージした上で「新とまたかるたができる」と来たので、好きとか以前の、かるた友達という原点に帰ったのか。

登場した札は、千早が隣席の札まで散らした時の「つきみれば」、新が千早陣から取った「おもいわび」と送った「しらつゆに」、新が連取した「あきかぜに」と送った「すみのえの」、新が満を持して抜いた「せをはやみ」、空札の「ちはやぶる」、千早が取り逃した「ゆうされば」、そして恐らく作者ミスなのだろうが何故か再登場、千早が連取された「あきかぜに」、読みは描かれていないがセイムの札は恐らく「ありあけの」、勝利を決めた「おおえやま」。

目の前にいる千早と札に拘り過ぎて試合を落としてしまった新だが、最後の「おおえやま」で手に動きがないのが気に掛かる。この札は新と太一に見てと訴えての「助けがなくても自分で出来た」という千早の答えかな。歌には「返事がない」といった内容も含まれている。

第31巻終了。百人一首は31音で構成されており、この第31巻が重要な位置付けになっていると作者が述べている。描かれているポピーは赤のみで、花言葉は「いたわり」「思いやり」「恋の予感」「陽気で優しい」。袖で紹介されている「このたびは」は、作中には登場しない。巻末四コマ漫画は無く、太一母と新母による映画レポ、映画版小説のさわりが掲載されている。