chiha memo

漫画「ちはやふる」の伏線や感想などの超個人的備忘録

第178首 最高峰という名の荒野

九月。千早は電車内でも勉強。大江が貸してくれた「英語でよむ万葉集」を開くと、彼女が勧める34ページ目に「たご」の原歌と英訳があった。

田子の浦ゆ うち出でて見れば 真白にそ 不尽の高嶺――
white, pure white――

見入っていると突然、「へえおもしろいね」と周防が前に立って覗き込んで来た。

「受験生さん 君の得意な『ちは』はどう訳す? 『唐紅』はred? んー crimsonかな……」

千早は真顔で考える。

「訳せない… ただの 景色を詠う歌になっちゃう」

周防は難しい顔をしつつ、千早の隣に座って「ちは」の話を続ける。そこで、周防の電話に着信があった。周防は知らない番号なので、バイブを振動させたまま出ない。留守電に替わってから耳に当てると、「ハァ…」という溜息だけで切れた。耳の良い千早にもそれが聞こえ、二人で慌てて下車。恐らく若宮だ。

周防がリダイヤルしても相手は出ない。いつもは若宮に電話しても切られ、電話が掛かって来たのは初めて。そう聞いた千早は財布にあった全財産を周防に差し出す。

「京都に行ってくれませんか だって… 普通のことなんですか? 詩暢ちゃんが周防さんに電話かけてくるのは 普通のことなんですか?」

戸惑っていた周防は冷静になり、若宮家に電話する。お手伝いさんが取り次いでくれなかったが、若宮の在宅は確認。周防は千早にお金を返し、「仕事に遅れるから」と立ち去る。


若宮は一人で練習中。畳に並ぶ札たちは「次読まれるのはだれかな」「うちや」「まろでござる」など、賑やかに待っている。頭に浮かぶのは、小さい頃の自分が「あきのたの」を取り、天智天皇と嬉しそうにハイタッチし、楽しそうにかるたをしている姿。しかし今、機械から読み上げられた歌は空札続き。

伊勢先生が訪ねて来た。以前若宮に渡した彼自身の著作に読み込んだ形跡があったので、返しに来たのだ。若宮は内容の意味が分からなかった、明星会にはもう行かない、と言い放つ。

「クイーンを倒したいと思ってやってる子はおらへんかった」

伊勢は厳しくしたら続かない子も多いと言うが。

同年代の友達はおらんほうがええ 詩暢ちゃんは 一人になるほど強くなる子や

昔のそんな考えとは違っているではないか。

「うちには かるた楽しむより 強くなる道しか選ばせてくれへんかったのに」

伊勢は内心驚きつつ、表情を締めて諭す。百人一首は高い山みたいなものだと。

「わしの言葉にわからんところがあるのなら まだ詩暢ちゃんは登り切ってないってことや」

その言葉に、かっとなる若宮。

「また強うなれって話か うちはクイーンやで これ以上の強さが!?」

伊勢は反論。

「綿谷新くんにも負け続けて 周防くんとも戦ったことがないのに 最強のつもりか?」

若宮は言い返せない。伊勢は著作を畳に置き、言い過ぎたことを謝って退室。


暗い顔のままでいる若宮のところに、息を切らした周防が訪ねて来た。若宮は周防を連れて、明星会へ向かう。

「伊勢先生 これから名人とかるた取るわ 勝ったら認めてや うちこそ最強やって」

若宮は強引に周防を座らせ、札を準備。しかし、周防を押し退け、若宮の正面に座ろうとする女の子が現れた。伊勢が注意しても駄々を捏ねる。

「だって チャンスないかもしれんもん クイーンもう来んかもしれんもん クイーン うちとかるた取って 強い人と試合がしたい どんだけ強いんか知りたい」

その子に、昔の自分を見た。札の神様もそう囁く。若宮は涙を浮かべる。

あのころの自分の前に いまの自分がもし現れたら 会いたかった 会いたかった ひとりでさびしかった どこへ向かっていいか わからへんかった まだまだ先に きれいな山があると 見せてくれる人がおったら

若宮はその女の子、こころちゃんと取ることにした。用済みとなった周防を伊勢が労うが、周防は伊勢を一瞥。

「詩暢ちゃんになにか呪いをかけてたのは 伊勢先生でしょう?」

伊勢もまた周防を見やる。

最高峰という名の荒野

自宅で勉強中の千早に、周防から報告の電話が掛かって来た。

「東日本予選がんばって 詩暢ちゃんと 不尽の高嶺で待ってるよ」

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下校中の電車内で、周防と遭遇した千早。千早の「ちは」の解釈は、まだまだな様子。周防は詩暢からの電話直後はあわあわしていたものの、流石終始大人である。詩暢の元にすぐ駆け付ける決断力と経済力、千早への対応も含め。

参考書やノートでの勉強風景の中、タブレットを手に勉強?している太一はセレブだなw 次のコマの千早は、そんな太一を盗み見しているかのよう。そして、千早が周防に渡そうとした全財産は2,000円弱。

伊勢先生は正しくて愛情もあるのだろうけれど、分かり難いタイプか。詩暢祖母と似ている。詩暢と周防が対戦したことがない件は、第7巻第41首でも周防が話していた。つまり、詩暢は周防のかるたを知らない? 但し、詩暢は第32巻第167首の対千早戦を見ても相手の動きに惑わされてはおらず――何が弱点なのだろう。

周防が電話をくれたのが夜で、大会がこれからということもあり、彼の背後の富士山は真っ黒く描かれたまま。白く変わるのは雪が降り積もる冬、つまり決定戦の頃になるのだろうか。と記していて思い浮かべるのは、第174首の「積もっていく」という独白。そもそもかなちゃんが第18巻第95首で使ったのが元で、第176首で彼女が本を貸してくれた時に何か言い掛けていたのも、深く関わって来そうだ。

冒頭で青ざめる詩暢のコマで散る札は「これやこの」「きりぎりす」など。練習中に並んでいた札は「しのぶれど」などたくさんあるので省略。

第34巻終了。タンポポ花言葉を調べると、「愛の神託」「真心の愛」「別離」「神のお告げ」「思わせぶり」と五つもある。この巻だけだと判断付かないが、現状では五つ目としか思えない千早の態度。帯広告には「見ていて――、私の覚悟。」

紹介されている歌は第175首で放映されたテレビ番組での音サンプルで、現在の千早の状況を表すかのような、「さびしさに」。第174首が「たごのうらに」に掛かる言葉の「積もっていく」で、今回の話の締めの言葉と絵も「たごのうらに」だから、第34巻の表紙袖で取り上げるべき一首のように思うが、かなちゃんお気に入りとして第6巻第32首で登場し、その巻の袖で紹介済み。上述の通り、この歌のネタはまだ引っ張りそう。合わせて、その過去巻の表紙の意図も見えて来たような……