chiha memo

漫画「ちはやふる」の伏線や感想などの超個人的備忘録

第150首 才能のそばは苦しいよ

太一にヒョロからメールが届いた。

瑞沢二試合目三勝二敗でギリギリ。ヤベーぞ。来いよ。 木梨

行かねーよ、と呟き、周防との練習に戻る。太一は東大かるた会に通うようになっていた。周防との練習の何が楽しいのか、他の者には分からない。ただ、太一が話していたことがあった。

「『周防さんの声が 大きく聞こえるようになってきました』って」

東京都予選決勝リーグ三試合目は、北央戦。A級だが二連敗している田丸、予選から調子の上がらない筑波。オーダーには両者と、千早、西田、駒野。

田丸は「まあ大丈夫」と言いつつ青ざめている。田丸がいつも近江神宮キャラのTシャツを着ていることから、かつての準クイーン桜沢翠のファンであった親が田丸に翠と名付けたと分かる。千早は田丸の手を取って試合会場に向かう。

「それはすごいね!! 名前もらって まっすぐここまで来たんだね 絶対 桜沢先生に会いにいかないとね」

北央は瑞沢のオーダーを読み切り、ヒョロが千早との対戦となった。自分は一敗しても、他のA級メンバー四人に勝たせる作戦である。千早は初めての対戦だと話し掛けるが、ヒョロは素っ気ない。

「ああ 千早はずっとおれなんか眼中になかったろ おまえは自分より強いやつしか見てねえんだ 冷てえよ」

田丸は因縁の太田との対戦。また嫌味を言われるが、田丸は意に介さない。千早のように、田丸の手を取ってくれる人だっているのだ。

試合が始まる。千早は序盤からヒョロを圧倒。ヒョロは動けない。

綾瀬は いちばんつき合いの長いかるた仲間だ どうしてこんなに差がついた 帰ってこいよ 真島 淋しいよ ”才能”のそばは苦しいよ

太一は周防とかるたの練習。フェイントに引っ掛かって、また負けた。周防とはすっかり打ち解けて、楽しそうに笑う太一。

もっと苦しいと思ってた 周防名人のそばにいるのは

周防が突然語り始める。

「遊びで火起こしとかしたことある? ”才能”なんて言うけど おれはたんに ”火が起こるまでの早さ”だと思ってる ”才能”があるやつは 火がつくまでが早い でも それだけ 火の強さや 燃え続けられる時間を保証はしない」

太一は周防との練習で笑い合いながら、メールのことを考える。

行けねえよ ヒョロ チームを手放して 一人になって 初めてかるたが楽しいんだ

ヒョロは必死で戦い続ける。

真島 帰ってこいよ 帰ってこいよ 次は取る 次は取る 次は取る 次は取る 見せたいんだ 才能なんかなくても おれが負けても チームが勝てば勝ちなんだ 真島 帰ってこいよ おれが作った負けない北央を見にこいよ

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東京都予選が行われている一方で、周防と練習する太一。太一の「かるたが楽しいんだ」で降って来る札が白くなっている。最も大きく描かれているのが、恋に苦しむ「みせばやな」。次に、第27巻第141首で塾帰りに周防を追い掛けた時にも登場し、その時は黒い札だった「みかきもり」と「みよしのの」。他に「ももしきや」「みかのはら」「きりぎりす」「あけぬれば」「たれをかも」などが見て取れる。現状を淡々と受け入れているような歌ばかり? 他、練習中に読まれたのは、下の句のみだが「なつのよは」と、変わらぬ心を詠う「ありまやま」。ヒョロの呼び掛けは「千早」と「綾瀬」でばらつきがある。

「”才能”があるやつは~」は、太一にも実は才能がある、という前振りなのだろうか。太一の才能については、太一自身が「ない」と過去にも複数回言っているので、読者側もそう思わせられているだけに過ぎない。第10巻第56首での原田先生の言葉を勝手に意訳すると、異常な程の運の無さで勝てていなかったのだけれど、本人が単純に「勝てないのは実力がないからで、つまりそれは才能がないからだ、と思い込んでいる」。先生は「ある」とも言っていないが、「ない」と断言してもいない。