chiha memo

漫画「ちはやふる」の伏線や感想などの超個人的備忘録

第138首 ずっとずっと小さいころから

太一が畳から身体を起こし、千早に真剣な表情を向けた。

好きなんだ 千早が

その言葉で、ぶわっ……と千早の身体が揺らぐような感覚。千早は驚いたように太一を見ている。その表情に、太一は千早の答えを覚悟。僅かに顔が曇る。嘘だよ、と取り消すことも可能だが、太一は真摯に言葉を紡ぐことを選んだ。

「千早 の 伸ばしたことのない 爪が好きだ 指が 髪が バカみたいに大きく開く口が 笑ってる顔が ずっとずっと 小さいころから」

さいころ。千早が思い浮かべるのは、小学生の自分と太一と新が一緒に歩いて行く姿。小学生の新……。三人でかるたの練習をしている様子……

太一は視線を外し、目を閉じた。

でも 全部じゃねえよ 新のこと 考えてるときの 千早だけは

千早は、新に告白された時のことを思った。新は? 新は? 新はこう言った。

『気が向いたら 一緒にかるたしよっさ 一緒に』

頭を下げて、こう続けた。

『生きていこっさ』

学校のチャイムが鳴る中、千早が振り絞るように口を開いた。

「―― ――」

太一は正座して聴く。

「――」

最後の一言を聞き終え、「うん」とだけ言い、俯く千早を残して立ち上がる。

なにやってんだろ おれ 自分だっていままで だれの気持ちも受け取って来なかった チャイムに消えるような 千早に出せんだ あんな小さな声 ”感じ”悪いから聞こえねーよ

千早の言葉は――

「ごめん」

太一は部室を出て、立ち止まる。降って来たかるたの水たまり。黒く塗りつぶされたかるた。

千早はカーテンを抱え、座り込んだたまま。黒く染まったかるたが降り注ぐ。


日は変わって、部の練習試合後に笑顔で皆と接する太一とは対照的に、正座したまま畳に視線を落とす千早。新入生部活紹介スピーチを話し合う時も、笑顔を見せる太一。

実力テストの結果票を配られる。顔面蒼白となった駒野が「理系総合順位1位」という結果票を西田に見せに行く。駒野が一位ということは、太一は二位以下。太一を心配していると、太一が現れ、肩を組んで来た。

「二人とも いい? 相談」

新入生歓迎部活動紹介。出番前なのに、太一が来ない。宮内先生が原稿を訂正しに来た。

「真島くんから退部届をもらいました 受験勉強に専念したいと」

目の前が暗くなる千早。西田達がスピーチを変わると言うが、千早はマイクを取る。しかし、部員数を口にしたところで詰まってしまい、泣きながら退場。スピーチの続きは大江がこなす。

千早は路上で太一を発見。太一の腕を掴んで引き留める。

「太一 太一 いやだ 太一 いやだ 退部なんて いやだ いやだよ 太一っ いやだあっ」

太一の腕を掴んだまま、泣き崩れる千早。太一は千早の身体を引っ張り上げ、もう片手で千早の頭を引き寄せ唇を奪う。離れて両手を肩に置き、目を見て言った。

「千早 おまえはおれが 石でできてるとでも思ってんのか」

涙に濡れた目を向けて来る千早を見て手を離し、自嘲気味に言う。

「やれねーよ かるた いま 百枚全部 真っ黒に見えんだよ」

かるたをする小学生の時の三人、二人で部室に畳を運び入れた時のこと、全国大会で近江神宮に行った時のこと、吉野会大会で二人が対戦した時のこと――背中を向けて去る太一を、千早はその場で立ち尽くして見送るだけ。

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第23巻第119首の新が告白で「一緒にかるたしよっさ」の後、無声映画のように新の口元が僅かに動いたり顔を隠したりしているので、その場面で「一緒に生きていこっさ」と言っているのだろう。「好きや」だけで十分動揺しそうな千早だけれど、これならすぐ返事出来ないのも無理ないか。

同じパターンで、千早の最後の台詞部分「――」は「ごめん」のようだ。その前の「―― ――」でも何か言っていることを示唆しているが、「なんでなんで」の答えとして、次回出て来る「私が太一の心を粉々に砕いていた」ことへの謝罪かな。但し、全てをちゃんと聞き取っていない太一は「ごめん」で「振られた」と受け止めた?

「なんでなんで」の太一イメージ元は第25巻第133首。千早に降って来た黒い札は殆どがぼやけており、判別出来るのは「なつのよは」と「なげきつつ」くらい。要するに月や夜の歌だが、次巻第141首と第142首でそれらを背景にした話が登場する。尚、太一に振って来た札に、文字は描かれていない。

担任の新海太一先生の名前が、苗字も新に海(わたのはら)というのも意味深。太一という名については第136首でも触れられていたので、いずれ由来が語られることになるのか。太一の「相談」は、第136首で千早がかなちゃん達に太一杯企画を「相談」した時と違い、背中側しか描かれていない。話の最初と最後が背中を向けて歩いて行く太一というのも、対になっている。

第26巻終了。袖の歌は第134首より、ヒョロが苦手な「人もをし」。巻末四コマ漫画は、葵は哲学体質、菫は恋愛体質。

表紙の太一と帯広告の「あなた一人を想ってきた――。」が切ない。描かれた曼殊沙華(彼岸花)の花言葉も、「悲しき思い出」「あきらめ」「独立」「情熱」だって(泣)。ただ、作品を通して「情熱」は重要なキーワードでもあるので、そちらに救いを求めたいね。